大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和45年(ネ)1099号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は被告の負担とする。

事実

一  被告は、「原判決中被告の敗訴部分を取消す。原告の請求を棄却する。訴訟費用は一、二審とも原告の負担とする。」との判決を求め、原告は主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、被告の主張として次の付加をするほかは、原判決事実摘示のとおりである。

被害者の被用者に対する損害賠償債権につき確定判決があるときは、被害者は使用者に対し、右判決が認容する額をこえる額の支払を求めることは許されないものというべきである。

本件事故につき、加害運転手たる浦田久子に対して原告に生じた損害額四〇万円の支払を命ずる確定判決があることは原告の認めるところである。被用者たる久子の債務と使用者たる被告の債務とは不真正連帯の関係にあるから、久子が右四〇万円を支払えば弁済の絶対的効力として、原告の本件事故による損害賠償債権は確定的に全部消滅し、したがつて被告の原告に対する債務も消滅する筈である。しかるに、原判決の見解によると、久子が四〇万円を弁済しても被告はなお差引八〇万円を弁済しなければ原告の損害賠償債権は消滅しないこととなる。これは背理である。しかも、原判決の命ずる一二〇万円を被告が支払えば、久子に対し同額の求償権を有することになるが、久子の損害賠償債務は四〇万円と確定しているから、これをこえて久子が求償されることはあり得ない。そうすると、被告は故なく四〇万円をこえる部分の求償債権を失わされたこととなり、これも背理である。もし久子に対する判決認容額が低額であつた点にその原因があつたとすれば、その判決を確定させた原告においてその責を負うべきである。要するに、原告の本件事故による損害賠償債権は四〇万円をこえないことが確定しているから、被告に対し右の額をこえる支払を命ずることは許されない。

三  証拠関係〔略〕

理由

当裁判所も、原告の本訴請求は、原判決が認容する一二〇万円とこれに対する昭和四四年五月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める限度において、正当であると認める。その理由は次の付加をするほかは、原判決記載(六枚目裏一行目「骨折」を「損傷」、同二行目「四二六日」を「四二八日」と各訂正)のとおりである。

被告は、弁済の絶対的効力、使用者の被用者に対する求償関係を理由に、使用者の負担する賠償額は被用者のそれをこえることがないと主張する。しかし、被用者の加害行為についての被用者自身の責任と使用者の責任との関係は、いわゆる不真正連帯と解すべきであり、不真正連帯債務の場合には債務は別々に存在するのであるから、両者の責任の範囲が必ず同一に確定されなければならないとの法律上の要請はなく、債務者の一人に生じた事由も、それが債権者を満足させるものでないかぎり、他の者の債務には影響がないものと解すべきである(最高裁判決四五・四・二一判例時報五九五号五四頁参照)。したがつて、被用者の債務に関して確定判決が存在することは使用者の債務になんら影響を及ぼすものではない。また、使用者のなすべき賠償額の認定が、すでに判決で確定している被用者のそれをこえた場合にも、使用者は、右認定額全部につき被用者に求償しえないわけではない。けだし使用者の被用者に対する求償権は、使用者、被用者間の関係に基づくものであり、被害者に対する関係とは別個に解決されるべきことだからである。右のとおりであつて、被告の前記主張は採用することができない。

よつて、右と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので、民訴法三八四条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 前田覚郎 黒川正昭 金田育三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例